2012年1月14日土曜日

山本周五郎

以前にも、書いたが、甲府の銀座通りにある「春光堂書店」で山本周五郎の本を購入した。「山彦乙女」という本である。山本周五郎が山梨の生まれであることをその本で知った。山本周五郎と言っても、若い人はぴんとこないと思う。私達以上の年代では、知らない人はいないと思う。その中で面白いところを抜粋する。

話題はしぜん、甲府のことが中心であった。半三助はそのなかで、「隠し言葉」「隠し草鞋」「隠し場」などということを面白く聞いた。それは、甲斐の国には温泉が七つあるが、みんな所在が秘密にされていたこと。「ゆこう」と云うばあいに「ゆかず」と、反対に言うこと。また草鞋(わらじ)は前うしろが逆に作ってあり、したがって地面には足跡が逆になって残ること、などであった。・・・・幸之助はびっくりして、思わずこう質問した。
「どうしてそんなにみんな隠なしちゃうんですか」
叔父は笑って、「それがねえ、みんな武田信玄の計略だっていうことだよ」
言葉で敵の耳をくらまし、足跡で敵の眼をくらます。というわけだそうである。また甲府しか周辺の言語や風俗には、信玄にむすびつけて伝承されるものが少なくない。
たとえば「叱られる」ということを方言で「よまあれる」というが、これは信玄が家来の過失を書きとめておいて、適当なときに、まとめて読み聞かす、―― おまえは某月某日これこれの失策をした、某月某日にはしかじか、某月某日には、というぐあいに叱る。つまり読みあげられる、読まれるという意味だそうで、ほかにもこれに類することは驚くほど多い、と叔父は云った。
「もちろん真偽のところはわかりません、おそらく付会したものでしょう、信玄を敬慕する感情からうまれたんでしょうが、とにかく土着民の信玄を崇拝することは、殆んど宗教的といっていいほど、根づよいものです」
「それだけ武田氏の治世が長かったんだね、六百年か七百年は続いたんだろう」「六百年が少し欠けるくらいでしょうかね」
それからまた、信玄の石棺、という話が出た。省略していうと、信玄が勝頼によって武田氏の亡びることを予断し、やがて再興をはかる者のために、伝来の白旗や、兜や、宝玉黄金などを巨大な石棺におさめて、どこかへ隠してある、というのであった。

付会:こじつけること。
私も、30数年前に山梨に来て、甲州弁はかなりわかるようになった。その由来が、付会であろうが、こんなことから来ていると思うと楽しい。

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