2012年1月19日木曜日

エンデの遺言

 「エンデ」という人物をご存知だろうか。私は名前だけ知っていただけである。本の帯に書いてあるつぎのような言葉に目が止まった。「どうすればお金の支配から自由になれるか」「老化するお金」「時とともに減価するお金」・・・・。興味ある方は「エンデの遺言」(河邑厚徳)という本を読んでみて欲しい。少し長くなるが、前書きの概略を紹介しよう。

私は、この本のメッセージは古びていないと思います。最初の出版から世界の基本は少しも変わっていません。利己的な経済効率優先の旗印の下に、人は地球をくまなく利潤追求の対象としてきました。そのスピードはますます速まり、問題が広がっていますが、誰もブレーキをかけられません。ブレーキのありかも定かでないように思います。
とらわれない目でなぜ?″と問う子どものように、改めて自明なことに目を向けてみる。本当の変化はそこから生まれます。代表作である「モモ」で時間を考えたエンデは、小さな人たちの未来を健やかにしたいと願っていました。第1次大戦後のハイパーインフレに苦しんだドイツで成長し、直観と思考の末に問題の根本はお金にあると考えたのです。
今から22年前の1989年、西ドイツ・ミュンヘン(当時)'初めてエンデと会った印象は強烈でした。
エンデに、NHKスペシャル「アインシュタイン・ロマン」の案内役を引き受けてもらうための出会いでした。取材をはじめると、エンデはあっさりと、アインシュタイン神話を否定しはじめました。私たちは、一人で相対性理論を発見したアインシュタインを憧れのスーパースターだと考えていました。
そこでエンデに同意を求めました。
「アインシュタインが原爆投下を知って『オーヴエー(ああ悲しい!)』と叫んだのは、悲痛な怒りの言葉ですね」と。
しかし、エンデはこう答えたのです。
「そうかもしれませんが、ドイツ人は財布を落としたときにも『オーヴエー』と言いますからね」
特殊相対性理論が核エネルギーを予言し、アインシュタイン自身が、核兵器開発を進めるルーズベル-トへの手紙にサインした事への痛烈な皮肉でした。「科学技術は何をしてもいいのではなくその結果に対する責任がある」。これがエンデの姿勢でした。最初は戸惑いましたが、常識はまず疑ってみるという、エンデらしい発言だと感じるようになりました。
その時、エンデが本当に考えていたのはお金の正体〃でした。そこで見えたことは、お金が常に成長を強制する存在であることです。科学とお金は共通点があります。現状に満足することがなく 科学は進歩″ を、お金(資本)は成長″ を追い求める点です。それが誰も疑わない現代の神話です。
お金が持つ成長への強制には理由があります。時間とともに加算される利子です。時間がたてばたつほど利子は増えるので、投資されるお金はそれに見合う見返りを求めます。私は、このような金融の仕組みとともに、もう一つ成長を強制する力は"人間の欲望だと思います。時間とともに膨らむ利子と欲望を推進力として、お金(マネー)は、国境を越えあらゆる分野で利潤を求めます。
経済はヒト、モノ、カネが市場や情報を通じて流動する生き物であるとよく言われます。ヒトがモノやカネを動かし雇用が生まれ、私たちの生活もその上に成り立っています。モノは地球上の限られた資源や環境です。ヒトもモノも自然界に所属する有限の存在です。しかし、肝心のカネは、紙に印刷したり、コンピューターで取り引きされる数字として人間が作り出したものです。自然の実存から遠い存在(バーチャル)なので、時間とともに増え、永遠に価値を持つことができるのです。エンデの『はてしない物語』は、リアルな実世界がバーチャルな虚無の国に少しずつ侵食される戦いを描いています。 
エンデは、経済を動かしているお金は、生き物の命を支える血液のようであるべきだと考えました。生き物の血管を流れる血液は役割を終えれば老化して、排せつ物として消えていきます。経済活動という有機体にも血液のようなお金が循環したら、いまとは全く違う世界になるはずです。
そもそもお金とは何か? お金は、人がつくりだしたものだから変えられるはずと、歴史を調べ、ゲゼルの経済学や地域通貨の存在に注目したのです。経済という天秤の一方の皿の上に有限な資源や人間、もう一つの皿に無限に増えるお金。2つは最初からアンバランスなのです。その不均衡は時間が経つごとに広がります。均衡しているように見えるのは何かが奪われて天秤の皿にのせられたからです。何が奪われたのでしょう。
21世紀になってもとどまることなく進む現象にそれが表れています。失業者が増え一部の国や人だけが富を得るという地球レベルでの貧富の拡大。資源の枯渇や砂漠化など自然環境の悪化です。『モモ』の時間貯蓄銀行の寓話は、有限な時間に利子をつけ永遠に銀行に貯蓄できるという、金融錬金術のまやかしを描いています。
人々は、″幸福″ はお金やモノでは得られないことに気づいて、新しい世界を求めていますが筋道が見えません。「どうすればお金の支配から自由になれるのでしょうか?」
もう一度エンデの問題提起に耳を傾ける時だと思います。不均衡な天秤のバランスを戻す知恵は、例えば、「時間とともに消えていくエイジング・マネー″や、時間とともに減る利子(マイナスの利子)など・・」経済学者や政治家が考えない自由な発想を、エンデは遺言として残してくれました。読む人それぞれが、この本から希望の手がかりを見つけてほしいと思います。

 この本を読んで、以前読んだ内橋克人氏の本に書いてあった「お金とマネーは違うものである」と言う言葉を思い出した。内橋氏も「エンデ」から、学んでいるのである。

0 件のコメント:

コメントを投稿