2013年12月12日木曜日

肉声


毎日新聞のコラム「発信箱」になるほどと思う文章があった。以下、全文を紹介する。

肉声の力

物事を、よりリアルに伝える手段とは何か。新聞記事とか写真、映像だろうか。京都大大学院教授で現代アラブ文学研究者の岡真理さんは、何かをより強く、深く伝えたいのであれば、それはむしろ「文学」であり、それを読み上げる「肉声」ではないかと考えている。
岡さんは、2008年末から09年初めにかけてのイスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区空爆の様子を描いた朗読劇「ガザ希望のメッセージ」の脚本を書き、演出した。空爆下のガザから寄せられた、ガザ・アズハル大学のアブデルワーへド教授からのメールなどが題材で、09年夏に京都で初公演。今年は5年目で、今月1314日、東京都中野区のポレポレ坐で再演する。
岡さんが朗読劇に魅せられたきっかけは、歌手の沢知恵さんの弾き語り「りゅうりぇんれんの物語」だったという。日本に強制連行され、その敗戦も知らずに北海道の原野で逃亡生活を続けた中国人の人生を詩人、茨木のり子氏が描いた長編詩。「弾き語りというより朗読で、その肉声の力、可能性に衝撃を受けた」
演劇や映画は視覚的に出来上がっていて、聴衆は受け身になりがちだが、朗読劇では、朗読者がまず物語をしっかりとつかんで読み解き、提示する。受け手はそれにより想像力が喚起され、能動的にとらえようとする。その作業こそが理解を深め、心を揺さぶるのだという。
ガザはイスラム原理主義組織が07年に武力制圧し、イスラエルは人と物の動きを規制する封鎖政策を実施。「閉ざされた世界」での市民生活の困窮が続いている。「人として、どう向き合うべきなのか、問いかけたい」という。
私は小説の朗読を聴くのが好きだ。毎週土曜日の朝、NHKラジオで小説の「朗読」をやっている。テレビで見るより、活字を読むより、はるかに想像力が働き、楽しい時間となる。朗読者が上手ければなおよい。私たちは「肉声」を忘れてはいないだろうか。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿