2014年7月29日火曜日

引用句辞典・教育の効率化


久々に毎日新聞の引用句辞典(鹿島茂)から引用する。
[教育の効率化]
今日、学校教育は各方面からますます多くの批判を浴びつつある。その最たるものは、教育に要した時間と努力(インプット)に対して、社会に還元されるもの(アウトプット)が少なすぎるという批判である。
義務教育から大学まで合計16年間も教育を受けているのに、社会人として使い物にならないじゃないか、どうにかしろと実業界から批判が上がったのだ。教育は「失敗と見なされた」のである。
そこで、文部科学省は「大学を出たら即戦力」になるような人材育成すべLという方向に舵を切って、一般教養を切り捨て、専門教育重視を打ち出した。
だが、現実はどうなっただろう。プロフェッショナルな知識をもった専門家予備軍が生み出されるはずが、一般教義がなくなった分、より無教養になっただけの大学生が大量に送り出される結果となったのである。
企業から苦情を聞かされた文科省は熟慮の末に、結論を出した。企業が要求する専門家は大学院でなければ育成できない。ならば大学院を増やせばいい。かくて修士と博士のインフレーションが始まった。で、結果は? 専門家になりすぎて、企業としては使い道のないオーバードクターの大量発生である。そこで、文科省はもう一度、大学に目を向けてこう結論した。教育効率が悪いのは大学教員が休講ばかりしていて授業日数が足りないからだ、と。そこで、休講した場合には補講を義務づけ、授業時間も年間最低30コマとした。文科省が依拠しているのは労働価値説だから授業時間を増やせばその分、大学生のレベルも上がるということになる。いずれ年間授業数は40コマに増えるだろう。文科省は自分の思いつき通達で大学教員が雑務に忙殺され、大学のブラック化が始まっていることに気づきもしない。
それどころか、大学とてサービス資本主義の聖域ではないという理由で、さらなる大学ブラック化が推し進められることになる。こうした思考の延長線上に浮かび上がってくるのが、学生へのサービス最大化を謳った年中無休24時間営業のコンビニ・デジタル大学である。クレジットカード決済でどんな授業もダウンロードし放題。教室に足を運ぶ手間も省けるから、サラリーマンでも大学に復帰できる。コンビニ・デジタル大学なら、一握りの人気教授だけでサイバー予備校のように全国カバーが可能だから、大学過疎地も救えるし、人件費の大幅削減も不可能ではなる。授業の人気度を基準に教員同士を競い合わせればレベルも上がる。かくて、ホルへ=ルイス・ボルヘスの弟子である偉大なる読書人マングェルが嘆くように、「時間がかかり努力を要することの利点を納得させる」ことはますます不可能になりつつあるのだ。
教育も平和もともに、時間と金がかかるとういう事を忘れてはいけない。どちらも効率よく達成できない。地道な努力を面倒くさがらずにやることである。

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