2011年7月19日火曜日

「は」と「が」の使い分け

 井上ひさしの「日本語教室」の紹介が続くが、その中でなるほどと思った文章があったので、紹介する。私も、以前からこの件については気になっていたことであった。

「は」と「が」の使い分け
日本語を教えている学校に、ぼくは韓国人のふりをして通ったことがあります。たまたまだったかもしれませんが、そこでは「は」と「が」の使い分けで終始していました。
私たちは「むかしむかしある所に、おじいさんとおばあさんは住んでいました」とは言いませんね。「おじいさんが山へ芝刈りに、おばあさんが川へ洗濯に」とも言いません。自然に「は」と「が」の違いを身につけています。でも外国の人にとってはこの区別はなかなかむずかしいそうです。
これにはいろいろな説がありました。「は」は題目であり、強調の意味があるという説が有力でした。つまり、「おじいさんは山へ」というときは、「おじいさんについて言えば」ということ、「おじいさん」を強調して言っているのだという考え方です。なんとなくこの説で納得していたのですが、大野晋先生がこの間題を徹底的に研究されました。もうこれで決まりだと思いますので、かいつまんで紹介しましょう。
大野説を一言で言ってしまうと、既知の旧情報には「は」を、未知の新情報を受ける場合は「が」を使うということです。「むかしむかしある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました」―はじめておじいさんとおばあさんが出てくるのですから、まだ誰も知らないわけですね。だから「が」を使います。次に「おじいさんは山へ」というときには、そのおじいさんは、ある所に住んでいるおじいさんに決まっているわけで、旧情報です。おばあさんについても同じで、ある所に住んでいるおばあさんに決まっています。別のおばあさんだったら大変です()
では、「私は井上です」と「私が井上です」の使い分けはどうなるでしょうか。たとえば全く未知の集団で「どなたが井上さんでしょうか」と言われたときは、「私が井上です」と答えると思います。また、自分が井上であることはもう知られていると思っていたのに「あなたは上田さんですよね」と言われたら、「私は井上です」と言うでしょう。
「は」と「が」に関して長いあいだ議論になっていた「象は鼻が長い」も、大野理論ですっきり解けます。つまり象そのものは既知のことですから「象は」で、「鼻が長い」は新情報なので「が」になるということで納得ですよね。
「東京は人口が多い」も同じで、主語が二つあるわけではありません。「みなさんが知っている東京について言えば」で「東京は」、人口のことが話題になるとは誰も知らないので、未知で扱って「人口が多い」となります。大野先生の説を非常に簡単にまとめてしまいました。大野先生の著書はたくさん出ていますから、興味のある方は是非読んでみて下さい。

 今、日本は小学生から英語を教えようとしている。このような日本語の奥深さを理解しないまま、英語を教えることに矛盾を感じるのは、私だけだろうか?はたしてどんな日本人になるのだろう?

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