2012年2月28日火曜日

福島第一原発

エンジニアとして、全米で原子炉の設計、建設、運用、廃炉に携わり、米エネルギー省の廃炉手引書の共著者でもあるアーニー・ガンダーゼン氏の「福島第一原発―真相と展望」と言う本が出版された。今回の原発事故での本は数多く出されているが、アメリカの原発の専門家の本は珍しい。極めて的確な指摘がされている。その要約は、終わりに、の部分に記されているので紹介する。

今回の福島第一原発の事故処理だけでも人類がいまだかつて直面したことのない試練ですが、国民と環境へ及ぼされる悪影響の拡大をさらに食い止めるには、エネルギー政策の転換を避けて通れません。原発は中央集権化された二〇世紀型電力の最たる例でした。ところが発送電の技術は、リスク分散やエネルギー効率の観点からも、好ましい方向へ日々進化しています。
かつて原子力が安価だったのは、人体や自然へ残す負の遺産が計算に入れられていなかったためでした。1979年にスリーマイル島でメルトダウンが起きる直前に私が発注した原発を境に、アメリカでは2011年まで34年間、認可されませんでした。現実の事故を考慮する以前に高まりつつあった、説明責任と安全対策への要求に応えると、原発はあまりにも高額になっていたのです。
福島第一の複合事故を研究するまでは私も、意識改革と科学技術の発展で徹底した改善が可能だと考えていました。しかし、健康被害の回避や長期にわたる放射性廃棄物の管理は人類の力を超えるという事実を確信するに至りました。震災がもたらした深い悲しみを目の当たりにして、謙虚さを取り戻すべきだと改めて気づいたこともあります。「明るい未来」という表現で売り込まれてきた原発ですが、平時であっても未来を蝕む過去の遺物なのです。
日本政府、東電、国際原子力機関(IAEA)の宣伝とは裏腹に事故は収束から程遠い状況です。今なお不安定な現場で続いている懸命な作業がなければ、四号機の使用済み核燃料プールでの火災や連鎖事故で全く制御が利かなくなる恐れがありました。また、おおむね海へ向かっていた風が陸地へ吹いていれば、日本列島の大部分は壊滅的な被害を受けていたでしょう。汚染の現実や放射能の有害性も軽視されていますが、すぐ近くまで迫っていた最悪の事態を理解すれば、到底支持できません。
それなのに、なぜ原発の擁護が一層強化されているのでしょうか。保身や利権、短期的利益を追求する人間の欲が理性を切り崩す構図は、社会全体に共通しています。それに加、核兵器と表裏一体で開発されてきた原子力は、国家の威信や機密事項と切っても切り離せない関係にあります。
広島と長崎への原爆投下を皮切りに、各国政府や大企業によって何章、いえ何冊分もの物語が紡がれてきました。ずらりと揃った書物は、両側から1対のブックエンドで区切られます。福島第一原発事故の惨事を受け止める私たちは、倒れそうに並べられた一連の本の終わりに、もう片方のブックエンドを強い意志と共に置かなければなりません。将来の世代を救うために、市民が歴史の主導権を握るチャンスなのです。
これからは化石燃料やウランではなく、日本が恵まれている風力、太陽光、潮力,地熱といった代替エネルギーを生かす時代です。技術者として私は日本の革新的なテクノロジーと丁寧な仕事ぶりに敬意を払っており、思慮深く勤勉な人々が世界に手本を示してくれることを期待しています。パラダイムシフトを乗りこなすにあたって、日本は決して遅れをとっていません。他国も失敗から学んでいませんし、国境を知らない放射能は地球規模の問題です。原子力を推進している他の国にとっても原発が本質的に時代錯誤であることに変わりはなく、持続可能な選択ではありません。これから幕開けとなるエネルギー革命を、日本に是非ともリードして欲しいと願っています。
パラダイムシフト(paradigm shift)とは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することを言う。パラダイムチェンジとも言う。

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