2012年8月20日月曜日

青銅の海

 私は、新聞の連載小説はほとんど欠かさず読む。余ほど相性の悪い作家でない限りは。1年連載されると大体が、単行本として出版される。1500円位するとそれだけ得したことになる。今、赤旗に連載されている。稲沢潤子氏の「青銅の海」は佐世保で民商の事務局で働く女性の話である。彼女の文章は、読みやすく、勉強になる。
 以下、「消費税」のことを述べている章である。

商の会員は、業者であることが条件だから、廃業すれば会員の資格はなくなる。退会せざるを得ないのだ。会員が7千人のピークに達したのは、消費税率が三%から五%に上がった年の二年後である。
自殺者が三万人を超え、交通事故死より自殺する人の数が多くなったと報じられたのもこのときである。
消費税のアップと時を同じくして、大企業の税率が引き下げられた。
大企業の税金を安くしてその足腰を強くし、雇用を回復して景気を上げるためだと説明されたが、強くなったのは企業だけで、それらの企業はこの国の雇用を拡大するどころか、より安い労賃と資材を求めて外国に流出していったから、雇用も景気も上がらなかった。
消費税は公平な税制だと政府与党はいうが、そんなことを信じている業者は誰もいない。ただ、彼らがおおやけにすることを避けながら意図していたように、安定した税収であることだけはたしかである。
大企業が納める税金は、業績が上がらなければ税収は下がるが、人は生きているかぎり食わねばならず、着なければならず、住まなければならないから、それらいっさいのものにかかる消費税は頼れる収入源なのだ。
消費税が増税になれば、消費者は不満をもちながらも買い控えをし、なんとか暮らしていこうとするだろう。一袋百二十円で買ったにんじんを使いきらずに腐らせてしまったことはなかったか。
安いからと思って買った玉ねぎから芽が出てしまったことはなかったか。
たまにはぜいたくをしたいと、しゃれた服を衝動買いしたことはなかったか。
そんなふうに、生活を切りつめて暮らしていこうとするだろう。だが、零細事業者にとっては、節約して生きていくどころではなく、死活の問題になった。財布のひもが固くなった消費者に、どのように対応すれば自分の店から物を買ってもらえるか。
そのうえ税務署からの攻勢もすさまじかった。法人税を引き下げたぶんだけ消費税の増収でおぎなおうと、税金とりたてに的をしぼってきたからである。
まず最初に標的にされたのが、すし屋とそば屋である。消費者から受けとった消費税を、税務署に納めずにふところに入れているのではないか。売り上げをごまかしているのではないか。標的にされたのは、高圧的に出ればうろたえてしまう小さな企業や個人事業主である。
資本主義社会での売り買いは、適正価格で取引されるわけではない。売り手と買い手の力関係で決まっていく。

沢潤子氏の文章力は一級品であると思う。優しく、解り易く、勉強になるのだ。これを読むだけでも「赤旗」をとる価値はある。

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