2012年9月27日木曜日

虫歯率

毎日新聞に「歴史・迷宮・解」というシリーズがある。タイトルの意味はどうでもよいが、面白い論文の紹介をしている。昔の人の虫歯の状況と原因を解いている。以下、概略である。
歯の病気は時代や地域によって大きく違っていたことが、近年の古人骨の調査でわかってきた。世界の狩猟採集民の中で本州の縄文時代人は突出して虫歯が多いが、北海道では全く虫歯のない海洋民も暮らしていた。社会の中での性差も歯に反映されている。大島直行・札幌医科大客員教授(人類学・考古学)1996年、北海道の縄文時代から近代までの人骨の虫歯率(調査した歯のうち虫歯が占める割合)について、論文を発表した。
本州の縄文人の虫歯率は10%前後と報告されている。大島さん自身の基準による調査では14 77%だった。これに対して北海道縄文人は218%と低く、先史時代のアメリカ先住民や近現代のイヌイットとほぼ同じだった。
本州の縄文人の虫歯率が高いのは、でんぷんを多く含んだ植物食にカロリー摂取を頼っていたためと考えられている。稲作農耕が始まった弥生時代の九州、本州では162-197%と、虫歯率はさらに上昇する。
その後、アイヌ文化が成立するまでの5-13世紀は擦文文化期と呼ばれる。擦文文化人にも、同時期に北東沿岸部で展開した全く異質のオホーツク文化人にも、虫歯は全く見られなかった。
擦文文化人は調査数が少なく、確実に虫歯ゼロとは言えないが、オホーツク文化人には納得できる理由がある。考古学調査や米田穣・東京大教授(先史人類学)らによる人骨の成分分析で、オットセイやトドなど海獣の狩猟を生業としていたことがわかっている。極北の狩猟民と同じく、高たんばく高脂肪の海産動物を主食としたために虫歯がなかったのだろう。
続く近世アイヌでも虫歯率0.47%と低く、糖分の摂取が増えた近代アイヌになって初ゆて2.88%と上昇する。縄文時代以来、山の幸にあまり恵まれなかった北海道先住民は、海の幸をエネルギー源として虫歯のない暮らしをした。
虫歯率を性別で見ると、女22.0%、男17.3%と女性が高く、40代以上に限ると女31.7%、男22.2%と、さらに差が広がった。生前に抜けた歯の割合は、40代以上で女43.5%、男335.3%と、やはり女性が高い。抜けた原因として考えられるのは虫歯か歯周病だ。女性に虫歯が多いのは世界的な傾向で、永久歯が早く生えることなど生体上の違いが一因とされる。さらに見逃せないのが食生活の違いだ。米田さんらによる人骨の成分分析で、近世久米島の男性は魚など動物性たんばく食を多くとり、女性は主に穀物を食べていたと推定されている。
要するに、穀類を多く取ると虫歯になる。糖分の接種を控えると虫歯の予防以外にも、中性脂肪の減少、糖尿病の予防につながることが、言われてきている。世の親は子どもには糖質をあまり摂らせないようにすべきである。

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