2012年10月1日月曜日

安保と尖閣

東洋経済の佐藤優氏の連載「知の技法・出世の作法」で、今回は「中間管理職に必要な論理と知識、経験とは」というタイトルで尖閣問題を論じている。連載の一部になるほどと思う箇所があったので、紹介する。

安保条約を読み込めば尖闇問題も理解できる
917日、来日した米国のバネツタ国防長官が玄葉光一郎外相'森本敏防衛相と会談した。
(玄葉氏とパネッタ氏は尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる日中の対立について「日中関係が大きく損なわれないよう日米間で協力する」ことで一致。米国が日本防衛の義務を負う日米安全保障条約が、尖閣諸島にも適用されることも改めて確認した。/玄葉氏は会談で、尖閣諸島の国有化について説明。そのうえで「大局的な観点から冷静に対処していく」と対中関係に配慮する考えを伝えた。(中略)/パネッタ氏は、森本氏との会談後の共同記者会見で「尖閣諸島での日中の対立は懸念している。当事者が冷静に対応することだ」と述べ、外交手段を通じた平和的解決を求めた。尖閥への日米安保条約の適用については「我々は条約上の義務を守る」と述べたうえで、「主権に関する対立では特定の立場をとらない」と語った。)918日、朝日新聞デジタル)
日米安保条約第5条では、外国からの武力攻撃に対し、共同防衛することをうたっている。だから日本政府もマスメディアも、中国が尖閣諸島を攻撃してきても米軍が守ってくれるので安心だ、という雰囲気を醸し出そうとしている。しかしそれならなぜ、パネッタ長官は「尖閣諸島の主権は日本に属する」と言わず、「主権に関する対立では特定の立場をとらない」と表現するのか。論理が崩れているように思える。
こういうときは条約のテキストを注意深く読むことが重要だ。日米安保条約第5条の前投について、ここに引用しておく。
(各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。)
5条は外国からの武力攻撃に対して、自動的に共同防衛を義務づけているのではない。「自国の憲法上の規定及び手続に従って」という制約が付されている。
米国憲法では、確かに大統領は軍の最高司令官であるが、宣戦布告権や軍隊の編成権、歳出権などは'実は連邦議会に属している。したがって、1973年に成立した「議会と大統領の戦争権限に関する合同決議」(戦争権限法とする)に基づき、連邦議会が大統領に対して授権を行わなくてはならない。はたして、中国軍が尖閣諸島を武力攻撃した場合、米国の連邦議会が大統領に向かって、日本と共同防衛に当たることを授権するだろうか。
さらにこの5条によれば、「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における」と、適用範囲が限定されている。北方領土と竹島は日本領だが、それぞれロシアと韓国によって不法占拠されている、というのが日本政府の見解だ。日本の施政が及ばない、北方領土と竹島における紛争は、日米安保の対象とはならない。バネツタ国防長官が「主権に関する対立では特定の立場をとらない」と明確に述べているから、仮に尖閣諸島に対する中国の実効支配が行われ、日本の施政が及ばないようになれば、第5条の規定に従って、尖閣諸島は日米の共同防衛の対象にならなくなる。
こうして論理をたどっていくと、尖閣諸島をめぐって日中の武力衝突が発生しても、米軍が日本側に立って行動する可能性は低いという現実が見えてくる。中国とビジネスをしている企業に勤める中間管理職にとって、尖閣問題に関する予測は重要だと思う。論理と知識(この場合は日米安保条約と米国の政治制度)を活用した読み解きの訓練をしておくと、情勢を分析する際に判断を誤ることは少なくなる。
以前にも紹介したが、佐藤優氏の知識はものすごいものがある。氏の政治的立場は異なるが、彼の分析は鋭いものがある。


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