2014年10月27日月曜日

最善説経済論


毎日新聞、鹿島茂の「引用句辞典」を久々に紹介する。今回はヴォルテールの「カンディード」と言う本から次の言葉を引用している。
「個々の不幸は全体の幸福を作り出す。それゆえに、個々の不幸が多いほど、全ては善なのだ」
いずれにしろ、私が最も恐れるのは、安倍首相が経済ブレーンの言葉に愚直に従うことである。というのも『カンディード』で主人公のカンディードが家庭教師のパングロスの最善説を無批判に信じたのと「信の構造」がよく似ているからだ。
パングロスは「すべては善であると主張した者たちは愚かなことを言ったものだ。すべては最善の状態にあると言うべきであった」と主張し、個々の不幸がどれほど目の前にあっても、いちいち目くじらを立てるべきではないと言う。なぜなら、「個々の不幸は全体の幸福をつくり出す」はずなのだから。
このパングロスの最善説は、新自由派経済学者たちによってたくみに作り替えられて、いまや世界経済の主流になりつつある。間接税を増税し、法人減税を実施すれば、たとえ一時的に格差拡大という「不幸」に見舞われるかもしれないが、最終的には、「個々の不幸」は国家全体の幸福を生みだし、ひいては、世界経済を好調の波に乗せるという議論である。こうした思考法は、ある意味、不都合な真実を見てもまったく動じないという点で「最強」であり、むしろ「個々の不.幸が多ければ多いほど」、「すべては最善」という自身の理論の確かさを信じてしまうのだ。
だから、リスボン大地震に遭遇したのを皮切りに、ありとあらゆる不幸に見舞われたカンディードがついに最善説とは「うまくいっていないのに、すべては善だと言い張る血迷った熱病さ」と悟ったとしても、あいかわらず、パングロスは「個々の不幸は全体の幸福をつくり出す」と言い張ってやまないのである。
まさに、安倍はブレーンからこの言葉を紹介され、素直に信じているのかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿