2013年7月5日金曜日

国破れて資本あり

 
 雑誌「経済5月号」の「世界の金融・経済危機をどうみるか」(森本治)の最後の部分を紹介する。
むすびにかえて
欧米の資産バブルが崩壊して金融危機が勃発し、世界経済は、金融機関の連鎖的破綻の危機や景気の著しい低迷に見舞われた。欧米諸国の政府は、「世界恐慌」をなんとしても回避すべく、金融機関の救済と景気のテコ入れのために膨大な財政出動を行った。もちろん、欧米の中央銀行も金利の引き下げや大規模な資金供給を行った。
アメリカの金融危機はとりあえず沈静化したが、なかなか景気は回復していない。ヨーロッパでは、資産バブル期に南欧諸国の国債投資にのめり込んだ英独仏の多くの金融機関が、欧州債務危機によって、経営危機に陥っている。欧米諸国政府は、膨大な財政赤字を抱えて経済危機や金融危機に対して十分な対応ができなくなる中、中央銀行が「大胆な金融緩和」を行って、なんとか「恐慌」の爆発を抑え込もうとしている。
既に1990年代初頭に資産バブルが崩壊した日本では、長期不況とデフレに見舞われている。安倍政権は、日銀に政治的圧力を加えてデフレを脱却し、円安誘導で輸出大企業にかなりの利益を上げさせている。もちろん、それだけでは景気は浮揚しないので、昔と同じように膨大な公共投資を行っている。
日銀には、物価上昇率を2%に引き上げさせようとしている。しかし、円安によりガソリン・灯油・食料品等の価格が上昇し、労働者・庶民の生活を苦しめている。膨大な内部留保を抱える大企業は、賃上げや労働条件の改善に背を向け続けている。物価を2%に上げると言っているのに、賃上げがゼロであれば、実質的には2%の賃下げとなる。ますます個人消費が減退し景気が後退するので、政府はさらに日銀に圧力を強めて、「大胆な金融緩和」を行わせて、株価・地価を引き上げさせ、資産バブルを起こさせようとしている。
それでも景気が良くならなければ、「国土強靭化計画」を遂行するとして日銀に建設国債を引き受けさせて、日本全土を掘り返すことになるであろう。こうして、日銀に新たな資金を大量に出させインフレをすすめる策は、庶民に対する究極の増税に他ならないのである。
このような最悪の事態を回避するには、地球環境保全型への経済・産業構造の大改革、大幅な賃上げと労働条件の向上と福祉の充実による個人消費の拡大、大企業と富裕層への増税と財政の無駄の徹底的な排除による財政再建等が不可欠である。
大企業は、2%の物価上昇率やTPP (環太平洋経済連携協定)への参加を政府に要望し、さらなる利潤追求を行おうとしているが、賃上げしなければ、ますます消費が冷え込んで、景気がさらに悪化することを全く理解していない。大企業は自分で自分の首を絞めているのである。利潤率が低下すると量で補おうとして、生産を拡大し、結局は「恐慌」を繰り返してきたのと次元は同じである。
賃上げと労働条件の向上を目指す労働者の闘いは、ますます重要な歴史的使命を帯びてきているのである。「国破れて、資本あり」とならないように。
この文章が今の日本の全てを言い表している。まさに「国破れて、資産家笑う」である。

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